※このインタビュー記事は、2017年8月に掲載した内容です。

ガラス板やアクリル板に触れるとメカニカル・スイッチのように、機能をオンしたり、オフしたりできる。これを実現している技術が「静電容量方式タッチセンサー」である。現在ではスマートフォンや白物家電、デジタルAV機器、車載用電子機器、ヘルスケア機器、産業機器などで採用が進んでいる。
米サイプレス セミコンダクタ社は、静電容量方式のタッチセンサーをいち早く市場に投入した半導体メーカーの1社だ。同社は、独自開発した静電容量方式のタッチセンサー技術「CapSense」を、専用のコントローラーICとして製品化を行い、またIPコアとして「PSoC」に搭載して市場に投入している。
その同社が、最新の第4世代のCapSense技術を搭載したマイコン「PSoC 4000S/4100S」を製品化した。「第3世代の技術に比べて、タッチの検出性能を大幅に高めた」(同社)という。そこで今回は、サイプレス セミコンダクタのマイコン事業部でプロダクト マーケティングを務める村澤学(むらさわ・まなぶ)氏に、検出性能はどの程度高めたのか、第4世代技術の適用でどのような使い方が可能になるのか、新しいマイコンの性能や機能はどの程度なのか、などについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。
第4世代のCapSence技術では、どのような性能をどの程度高めたのか。
村澤 第3世代のCapSense技術と比較すると、タッチ検出時の信号対雑音比(SN比)が大幅に高まった。300対1を実現している。このため、検出感度が向上し、反応特性も大幅に改善された。また、従来の方式である自己容量方式に加え、新たに相互容量方式にも対応している。これにより近接したセンサー数が多いシステムでも対応できるようになった。
実現技術について教えてほしい。
村澤 基本的な技術は、第3世代と同じである。そこは変更を加えていない。今回は、IP内部のアナログ回路をトランジスタ・レベルから見直すことでSN比を高めた。回路を最適化したというイメージだ。
回路の最適化で性能を高める
第4世代のCapSense技術を実用化することで、どのような使い方が可能になると考えているのか。
村澤 第3世代のCapSense技術では、静電容量方式のタッチセンサーの採用を見送らざるを得ない特殊なケースが実際にあった。例えば、電極(ボタン)の寸法が小さく、それらを密集して配置しており、隣り合うボタンで干渉が発生してしまい正確に検出できないケースである。こうしたケースでは、残念ながら静電容量方式のタッチセンサーの採用は見送られた。
しかし、第4世代のCapSense技術を使えば、こうした課題を解決できる。SN比が高く、相互容量方式を用いれば干渉の影響を受けにくく、正確にタッチを検出できるからだ。
実際に、第4世代の CapSense技術を発表した後で、一度は採用をあきらめたユーザーから再度挑戦したいという連絡があったのか。
村澤 そうした問い合わせは少なくない。実際に、もう一度チャレンジしているユーザーもいる。SN比の改善により感度も向上し、木材や厚いアクリル材でも反応する。タッチボタン表面の材質の選択肢が増えることでデザインの幅も広がるので、既存製品の差別化が容易である。
このほか、第4世代のCapSense技術では、新たに適用することが可能になったアプリケーションもある。具体例として、液量のセンシングである。シャンプーや薬品などが入ったボトルの液面を検出することが目的だ。成分が変化することを避けるため遮光されているようなボトルは液量を検出するのに手間が掛かる。そこで電極をボトルに貼りつけ、液面を検出して液量を測定する。より小型のボトルに対して、検出感度が高く、かつ電極を細かく設置できることから、より正確な液面検出が可能となった。
このほかにも第3世代から改善された点はあるのか。
村澤 大きな改善点はもう1つある。消費電力を削減したことである(図1)。第4世代では、CapSense IPのセンサー毎の平均消費電流は3μAと少ない。第3世代では6μAだったので、消費電流を半減することができた。
さらに、マイコンの詳細については後述するが、マイコン全体の消費電流も削減した。スリープ・モード(CPUは停止しているが、周辺回路すべてが動作している状態)時の消費電流は1.1mAで、ディープ・スリープ・モード(CPUと周辺回路の一部が停止している状態)時は2.5μAといずれも少ない。このため、ウエアラブル機器などのバッテリ搭載アプリケーションへの適用も可能だ。
CPUはCortex-M0+
それでは、第4世代のCapSense技術を搭載したマイコンについて説明してほしい。
村澤 第4世代のCapSense技術を搭載したマイコンは、当社のマイコン・ファミリーである「PSoC 4」のラインナップに追加した。製品は2種類ある。1つは「PSoC 4000S」で、もう1つは「PSoC 4100S」だ(図2、図3)。
この「PSoC 4」とは、低消費電力のウエアラブル機器や家電機器、産業機器などに向けたマイコン群である。「PSoC4100S」「PSoC4000S」のCPUは、英ARM社の32ビット・コア「Cortex-M0+」を採用した。「PSoC 4100S」では、プログラマブルなアナログ・ブロックとしてオペアンプやコンパレータ、12ビット分解能の逐次比較(SAR)型A-D変換器などを、必要に応じて使用する回路を選択して、それらを自由に内部接続できる。「PSoC 4000S」には「PSoC4100S」と比べ一部アナログ・ブロック機能はなく、いわば「汎用マイコン」としての用途に近いユースケースで利用されることを想定した製品である。
基本的に、CapSense 技術は、各マイコンにIPコアとして搭載されている。今回開発した第4世代のCapSence技術に対応したIPコアは、「PSoC 4100S」と「PSoC 4000S」に初めて搭載した。
PSoC 4000SとPSoC 4100Sの末尾に付いた「S」は何を表すのか。
村澤 「S」は、搭載したフラッシュ・メモリの容量を示す。「L」が最も多く、次いで「M」、「S」の順番になる。今回、「PSoC 4100S」「PSoC4000S」には最大32Kバイトのフラッシュ・メモリを搭載した。
なお、製品番号の末尾にはL、M、Sのほかに「BLE」が付くものもある。文字通り、Bluetooth Low Energy(BLE)機能を搭載した製品である。
安価な評価キットを用意
第4世代のCapSense技術の製品展開予定を教えてほしい。
村澤 今回は「PSoC 4」に搭載したが、今後はほかのマイコン・ファミリーに展開していく予定だ。例えば、「PSoC 6」である。PSoC 6は、Cortex-M4コアとCortex-M0+コアを搭載したデュアルコア・マイコンである。低消費電力であることが特徴で、IoTに対応したノード機器やエッジ機器などに向ける。2017年3月にPSoC 6の新製品を発表した(量産は2017年第 4四半期)が、それにも第4世代のCapSense対応IPコアを採用している。今後製品化するものには搭載していく考えだ。
評価キットは用意しているのか。
村澤 PSoC 4000Sを搭載したスティック型の評価キットを用意している(図4)。型番は「CY8CKIT-145-40XX」である。この評価キットの特徴は、スティック型のメインボードの両側に、静電容量方式に対応したボタン/スイッチを作り込んだデモボードが取り付けられていることにある。ユーザーは、ボタン/スイッチを自作しなくても、このデモボードを使うことで、第4世代のCapSense技術の性能を簡単に評価できる。
もちろん、自作のボタン/スイッチを使って評価することも可能だ。デモボードは、折ることでメインボードから切り離せる。その後、メインボードの電極につなぐだけで、静電容量方式のボタン/スイッチとして機能する。
評価キットの価格はいくらか。
村澤 米国での参考単価は15米ドルに設定した。かなり安価な設定だと言えるだろう。競合他社の評価キットよりも低価格なため、手軽に評価することが可能になるはずだ。
CY8CKIT-145-40XX PSoC® 4000S CapSense Prototyping Kit

スティック型のメインボードの両側に、静電容量方式に対応したボタン/スイッチを作り込んだデモボードが取り付けられていることにある。 ユーザーは、ボタン/スイッチを自作しなくても、このデモボードを使うことで、第4世代のCapSense技術の性能を簡単に評価できる。
定価:1,800円 ⇒ 特別価格:1,500円