~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向をお届けします。

静電容量タッチセンサーが大きな飛躍、水やノイズへの耐性高めて、新たな用途開拓へ

 スマートフォンへの搭載をキッカケに、静電容量方式を採用したタッチセンサ(静電容量式タッチセンサ)市場が急拡大している。現在では、ATM(現金自動預け払い機)などの産業用電子機器や、プリンタなどのパソコン周辺機器、カーナビゲーション装置などの車載用電子機器にも採用が広がっており、今や白物家電にも採用され、今後は住設機器などにも広がる見込みだ。

 これだけ静電容量式タッチセンサ市場が拡大すれば、それに向けた半導体チップ市場に参入するメーカも増える。すでに米国や欧州、日本などの大手半導体メーカが製品を投入している。米オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)社もその1社だ。

 今回、ルネサス エレクトロニクスは、こうした課題をクリアできるタッチキー・ソリューションを開発した。このソリューションの概要やターゲット市場、課題を解決できた技術的なポイントなどについて、同社 第二ソリューション事業本部 産業第一事業部 家電ソリューション部で部長を務める大川実(おおかわ・みのる)氏に聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

静電容量方式を採用したタッチキーは、適用分野が急速に広がっている。今後は、どのように展開していくと考えているか。

大川氏

第二ソリューション事業本部 産業第一事業部
家電ソリューション部 部長 大川氏

大川 すでに、デジタル家電では当たり前の機能となった。白物家電でも、大型機や高級機では多くの機種で採用されており、今まさに普及機への採用が始まったところだ。次は、住設機器に広がると見ている。具体的には、給湯器のリモコンや温水洗浄便座、照明器具のスイッチなどである。長いスパンで見れば、車載機器や産業機器でも使われるだろう。いずれ、すべてのスイッチ(物理ボタン)は、タッチキーに置き換わるはずだ。

なぜ電子機器メーカーは、既存の物理ボタンをタッチキーに置き換えるのか。そのモチベーションは何か。

大川 タッチキーに置き換える理由は大きく分けて3つある。
 1つはコストだ。物理ボタンの場合は、スプリングやプラスチック部品、金属電極などの部材が必要である。一方、タッチキーであればアクリル板などを用意するだけで済む。もちろん、タッチキーに対応した信号処理回路は必要になるが、今回はIP(intellectual property)コア化してマイコンに集積化した。電子機器でマイコンは必ず使う。そこに集積されたIPコアを使うだけなので、コストの増加分はないと考えていいだろう。

 さらに、故障率が減るため、メンテナンス・コストも削減できる。物理ボタンだと、粉塵や水滴が、プラスチック部品の隙間に入ってしまい故障してしまう。その対応にコストがかかる。

2つめと3つめの理由は何か。

大川 タッチキーに置き換える理由は大きく分けて3つある。
 1つはコストだ。物理ボタンの場合は、スプリングやプラスチック部品、金属電極などの部材が必要である。一方、タッチキーであればアクリル板などを用意するだけで済む。もちろん、タッチキーに対応した信号処理回路は必要になるが、今回はIP(intellectual property)コア化してマイコンに集積化した。電子機器でマイコンは必ず使う。そこに集積されたIPコアを使うだけなので、コストの増加分はないと考えていいだろう。

 3つめは、デザイン性の高さだ。例えば、LEDと組み合わせれば、タッチキーが空中に浮かんでいるように見せることができる。とても先進的で、カッコいい。このため、白物家電では、高級機から採用が始まったわけだ。

検出回路を工夫して、感度を高める

今回開発したタッチキー・ソリューションは、どのようなマイコンで利用できるのか。

図1 タッチキー評価キット

大川 前述のように、タッチキー機能を実現する信号処理回路はIPコアで実現しており、これをまず32ビット・マイコン「RX113」に搭載した。マイコン自体はすでに、2014年12月に発表した。今回は、このマイコンを使って電子機器にタッチキー機能を実装する用途に向けて、RX113を搭載したCPUボードとタッチキー評価ボード、開発ツールを同梱した評価キットを用意した(図1)。

タッチキーのソリューションは、すでに多くの半導体メーカーが市場に投入している。そうしたメーカーのソリューションと比較した場合のメリットは何か。

図2 開発したタッチキー・ソリューションの3つの特徴

大川 メリットは大きく3つある(図2)。1つは、感度が高い上に、ノイズ耐性も非常に高いこと。2つめは自己容量方式と相互容量方式の両方に対応できること。3つめは、タッチキー機能を簡単に電子機器に実装できることである。以下で、3つのメリットを一つずつ説明しよう。

 まずは感度とノイズ耐性である。一般に感度は、電極の上に重ねるオーバーレイ材の厚さで表現することが多い。今回のソリューションは、アクリル板であれば10mm厚に対応できる。従来のソリューションでは、これだけの厚さには対応できない。

 さらにオーバーレイ材にアクリル板ではなく、木材も使える。木材は、アクリル板よりも誘電率が低い。このため通常はオーバーレイ材に使うことは困難だが、今回は感度を大幅に高めたので適用が可能になった。住設機器などの用途において、デザイン性のさらなる向上に貢献できるだろう。オーバーレイ材に触れない指の動きを検出する近接センシング(ホバリング)については最長で30cmに対応できる。

 ノイズについては、従来のソリューションでは大きな問題になるケースが少なくなかったようだ。電子機器や照明器具などから放射されるノイズが原因で、誤動作や誤検出を招いていたからだ。今回のソリューションでは、こうした誤動作や誤検出はほとんど発生しない。静電容量の変化を検出する回路を工夫することで実現した。

高い感度と高いノイズ耐性を実現できた技術的な理由を説明してほしい。

図3 自己容量方式と相互容量方式

大川 感度を高められた技術的な理由は2つある。1つは、静電容量の検出に利用する電流発振器の分解能を高めたことだ。0.1pFの変化に対応できる。

 もう1つは、静電容量の変化分のみを高いダイナミック・レンジで検出する回路方式を採用したことである。通常、静電容量は、グラウンドとの間の容量と、人体/指との間の容量の合計値になる。検出したいのは、人体/指との間の容量だけだ。今回は、グラウンドとの間の容量だけを信号処理によって見かけ上低く抑えて、指との間の容量を相対的に大きく扱うことでダイナミック・レンジを稼いだ。

 ノイズ耐性を高められた理由は3つある。1つは、入力インピーダンスを低く抑えたことである。従って、電極がノイズを受信するアンテナになりにくい。2つめは、サンプル・パルスにスペクトラム拡散クロックを使用したこと。3つめは、タッチキー機能を実現するIPコア専用の電源を用意したことである。

水が付着していてもタッチを検出できる

今回のソリューションの2つめのメリットである、自己容量方式と相互容量方式の両方に対応できることについて説明してほしい。

製品応用例

水が流れても誤作動しない!!

大川 静電容量方式のタッチキーには、2つの検出方式がある。それが自己容量方式と相互容量方式だ(図3)。それぞれにメリットとデメリットがある。

自己容量方式のメリットは、電極パターンの形成が簡単で、基板コストが安いことが挙げられる。ただし、水が付着した状態でのタッチ検出は極めて難しいというデメリットがある。なぜならば、自己容量方式では、グラウンドとの間の容量と、人体/指との間の容量の和を検出するからだ。水が付着しても容量は増える。このため、水が付着したのが、人体/指が触ったのかを判別できない。これでは、人体/指が触れたことを検出するのは困難だ。

一方の相互容量方式は、電極パターンが比較的複雑で、基板コストが自己容量方式よりも高くなるというデメリットがある。しかし、水が付着した状態でも、タッチ検出を実現できるという大きなメリットがある。

なぜ実現できるのか。その理由は、静電容量の検出方法にある。相互容量方式では、2つの電極間(トランスミッタ電極とレシーバ電極)にあらかじめ電磁界の結合を作っておく。そこに人体/指が近づくと、電磁界の一部が人体/指と結合する。つまり、相互容量方式では、初期状態の電極間の容量から、人体/指との間にできた容量を引き算した結果を検出することになる。

このため、水が付着して電極間の容量が増えても問題ない。それを初期状態として、人体/指との間にできた容量による減少分を検出すればいいからだ。これが、水が付着した状態でもタッチ検出が可能な理由である。

自己容量方式と相互容量方式の両方に対応するソリューションを提供している競合メーカーはないのか。

大川 一部のメーカーが両方に対応するソリューションを提供している。ただし、国内メーカーでは当社が初めてとなる。

なぜ、ルネサス エレクトロニクスが今回のソリューションを開発できたのか。

大川 当社には、多くのアナログ回路エンジニアがいる。こうしたエンジニアのアイデアと努力によって、実現できたといえるだろう。

今回のソリューションの3つめのメリットである、タッチキー機能を簡単に電子機器に実装できることについて説明してほしい。

大川 このメリットは、タッチキーの感度を自動的に最適化するツール「Workbench6」によって実現した。パソコンの上で、ドラッグ&ドロップの簡単な作業で電極のデザインを指定した後、実際に電極に触れるだけで感度を自動的に調整してくれる。難しい計算や設定は不要だ。

その後、Workbench6は、マイコン開発環境「CS+」、もしくは「e2 Studio」を制御してコンパイルやプログラムのダウンロードを自動的に実行する。ユーザーはWorkbench6を操作するだけでタッチキー機能を実現できるわけだ。

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