~Maker Interview~
メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
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メーカーインタビュー > アナログに注力する新生「エスアイアイ・セミコンダクタ」、まずはパワー・シーケンサーICで市場拡大へ

アナログに注力する新生「エスアイアイ・セミコンダクタ」、
まずはパワー・シーケンサーICで市場拡大へ

  「エスアイアイ・セミコンダクタ」という新しい半導体メーカーが2016年1月5日に誕生した。セイコーインスツル(SII)の半導体事業を分社化し、SIIと日本政策投資銀行の出資を受けるかたちで生まれた新会社だ。
 この新会社が注力する製品分野は、電源用ICやセンサ用などのアナログ半導体チップである。現在、世界の半導体市場では、アナログ半導体メーカーの堅調な成長が注目を集めている。しかも、軒並み、利益率が高い。
 エスアイアイ・セミコンダクタは、SIIから分社化してアナログ半導体チップの専業企業に生まれ変わることで、こうした世界のアナログ半導体メーカーの仲間入りを果たす考えだ。今回は、同社の開発本部 商品企画部 部長の中上智之(なかうえ・ともゆき)氏と、開発本部 商品企画部 商品企画1チーム チームリーダの藤井治義(ふじい・はるよし)氏、開発本部 商品企画部 商品企画4チーム 主任の武田尚久(たけだ・たかひさ)氏に、新会社の事業目標や、注力する市場、今後市場拡大を期待する製品などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

開発本部 商品企画部 商品企画1チーム チームリーダの藤井氏(左)
開発本部 商品企画部 部長の中上氏(中)
開発本部 商品企画部 商品企画4チーム 主任の武田氏(右)

エスアイアイ・セミコンダクタが目指す
アナログ半導体メーカーの姿とはどのようなものか。

中上 今後は売上高を1000億円まで増やし、世界のアナログ半導体における特定分野においてトップ5に入ることが目標だ。現在の売上高は300億円程度。ここからいかにして増やすのか。電源用ICやセンサ用ICのほか、国内で75〜80%の市場シェアを獲得している車載用EEPROMなどの売上高を増やすことに加えて、M & A(企業の合併や買収)によって事業規模を拡大することも視野に入れている。

5つの市場分野に照準

海外のアナログ半導体メーカーは、いずれも高い技術力を誇っている。エスアイアイ・セミコンダクタのコアとなる技術は何か。

中上 低消費電力や低電圧動作、超小型パッケージを実現するアナログ回路技術とデバイス技術だ。これらの技術を駆使することで、「Small Smart Simple」なアナログ半導体ソリューションを顧客に提供して行く。
 具体的なコア技術としては、精度が1ppm/℃と高い基準電圧源が挙げられる。世界全体を見渡しても、同じレベルにあるアナログ半導体メーカーは当社のほか、海外メーカーの大手数社しかないだろう。

こうした技術力を利用して、どのような市場分野の開拓を狙うのか。

中上 5つの市場分野に照準を合わせている。具体的には、「メディカル」、「エネルギー」、「ロボット」、「自動車」、「コミュニケーション」の5つだ。これらの市場に、電圧レギュレータICやDC-DCコンバータIC、オペアンプIC、ホール・センサICなどのアナログ半導体チップを売り込んでいく。

コンシューマ(民生)市場については、どのように取り組む考えか。

中上 もちろん、「コンシューマ(民生)」市場も重要視している。ウエアラブル機器やエナジー・ハーベスティング用途など、今後成長が期待できる新市場が多い。こうした市場に向けて、特徴のあるアナログ半導体チップを投入していく考えだ。

「こんなものが世の中にあったのか」

今後、市場拡大が特に期待できる製品を紹介してほしい。

中上 2015年9月に製品化を発表した民生機器向けパワー・シーケンサーIC「S-7710xシリーズ」には、格別な期待を掛けている。
 パワー・シーケンサーICとは、マイコンやFPGA、SoCなどに供給する電圧をオンする順番(オン・シーケンス)、もしくは電圧をオフする順番(オフ・シーケンス)を制御するものだ。複数のイネーブル(EN)出力を備えており、これを使って外付けの電源ICを順次オン/オフして行く。決められた順番通りに電源ICをオン/オフしなければ、マイコンやFPGA、SoCなどが破壊されたり、ラッチアップしてしまったりする危険性が高まる。極めて重要な役割を果たすICである。

パワー・シーケンスについては、FPGAやマイコン、SoCなどの駆動に必要な複数の電源を搭載したパワー・マネジメントIC(PMIC)を採用すれば、簡単に制御できると思うが…。

中上 確かに、PMICを使えば、所望のパワー・シーケンスを簡単に実現できる。しかし、PMICは機能が豊富なため、コストが高い傾向にある。しかも、プリント基板上の実装面積は大きくなってしまう。
 当社のパワー・シーケンサーICは、必要最低限の機能を厳選し、それしか搭載していない。パッケージは、わずかに8端子だ。これに、複数個の電源ICを組み合わせる。そうすることでパワー・シーケンスを確保した電源システムを低コストで実現できるわけだ。しかも実装面積は小さい。
 もちろん、抵抗やコンデンサを組み合わせたRC遅延回路を使えば、より低いコストでパワー・シーケンスを実現できる。しかし、設計時間がかかるうえに、もし設計をミスすれば破壊やラッチアップといった事故が発生する。当社のパワー・シーケンサーICを使えば、低いコストでこうしたリスクを回避できるわけだ。

図1 パワー・シーケンサーICの内部ブロック図
4チャネルのイネーブル(EN)出力を備えた「S-77100Aシリーズ」の場合である。

同様にパワー・シーケンサーICは、
競合他社は製品化していないのか。

中上 競合他社は、製品化していない。もちろん、パワー・シーケンサーIC自体は製品化しているが、いずれも高機能品だ。
 なぜ競合他社が、同様のパワー・シーケンサーICを製品化していないのか。その理由はわからない。しかし、半導体チップはとかく、高機能化に向かいがちだ。そういった意味で、機能をそぎ落とした今回のパワー・シーケンサーICは、「市場の盲点」だったと言えるかもしれない。すでに多くの顧客企業を訪問して今回のICを紹介しているが、その中には「こんなものが世の中にあったのか」と驚嘆の声を漏らすエンジニアもいた。

図2 PMICを置き換える
パワー・マネジメントIC(PMIC)の代わりに使用することで、
低コスト化を実現できる。

リバースとフォワードに対応

具体的な使い方を教えてほしい。

中上 発売したパワー・シーケンサーICには2つの製品がある。4チャネルのイネーブル(EN)出力を備えた「S-77100Aシリーズ」と、3チャネルを備えた「S-77101Aシリーズ」である(図1)。S-77101Aシリーズはイネーブル端子が1つ少ないが、その代わりにディスエーブルトリガ入力端子を搭載した。
 使い方は極めて簡単だ。パワー・シーケンスの遅延時間は、1個の外付けコンデンサの容量を変えることで調整できる(図2、図3)。4個以上の電源ICのパワー・シーケンスを制御する必要がある場合は、発売したICをカスケード接続すれば良い。ブロック玩具のようにICを組み合わせるだけで、制御する電源ICを簡単に増やせるわけだ。

図3 急な設計変更にも柔軟に対応
発売したパワー・シーケンサーICを使えば、新たに追加した電源ICに対してもシーケンス制御を実行できる。

ディスエーブルトリガ入力端子はどのようにして使用するのか。

武田 S-77100Aシリーズでは、電源オン時と電源オフ時ともイネーブルトリガ入力端子に信号を入力することで、オン・シーケンス期間とオフ・シーケンス期間に移行する。一方のS-77101Aシリーズは、電源オン時はイネーブルトリガ入力端子に、電源オフ時はディスエーブルトリガ入力端子に信号を入力することでオン・シーケンス期間とオフ・シーケンス期間に移行する。
 通常のパワー・シーケンスでは、オンした(立ち上げた)順と逆の順番で、オフしていく(立ち下げていく)ことが多い。いわゆる「リバース・タイプ」だ(用途によっては、立ち上げ時と同じの順番で立ち下げる「フォワード・タイプ」に対応することが求められるケースがある)(図4)。
 コントロールするEN端子の数が4本以下であれば、本IC一つで、「リバース・タイプ」と「フォワード・タイプ」を実現可能である。
 EN出力が多い場合、複数段カスケード接続を行うことでシーケンス動作を実現する。この場合のS-77101に搭載のディスエーブルトリガ入力端子を使用することで「リバース・タイプ」を実現可能である。

そのほかの特徴は何か。

中上 消費電流が低いことである。オフ期間とパワーグッド期間とも、消費電流は3.0μA(標準値)と小さい。さらに、電源電圧は+2.2〜5.5Vと広く、出力形態としてCMOS出力とNchオープン・ドレイン出力のいずれかを選択できることも特徴に挙げられるだろう。パッケージは、8端子TSSOPと8端子SNT-8Aを用意している。

図4フォワード・タイプとリバース・タイプ

発売したパワー・シーケンサーICが狙う主な市場は何か。

藤井 薄型テレビや携帯型ビデオ・カメラ、プリンタ複合機(MFP)などでの採用を期待している。

今後の製品展開について教えてほしい。

中上 まずは、パワーグッド信号モニター機能を搭載したパワー・シーケンサーICの市場投入を考えている。その先については、まだ具体的な方向性を決めていない。発売したパワー・シーケンサーICがどう使われているのか。それを見極めたい。そうすれば、新しい道筋が見えてくるかもしれないと考えている。

キャンペーン情報

安定したシステムの起動を実現するパワーシーケンサIC。外付けコンデンサによる簡単な設定で電源シーケンス制御が可能。

  • 低消費電流3.0μA typ.
  • 入出力形態など様々なオプションが選択可能(フォワードタイプ、リバースタイプなど)

シリーズ名 動作電圧範囲 消費電流 出力EN Ch数 データシート 購入
S-77100 2.2~5.5V 3.0μA typ. 4ch EN出力(OFF端子あり)
S-77101 2.2~5.5V 3.0μA typ. 3ch EN出力(OFF端子あり)